前田尋之『X68000パーフェクトカタログ』(ジーウォーク)■ クリエイターを養成したパーソナルワークステーション シャープという電機メーカーがかつて日本に存在していたことを、皆さんは憶えているだろうか。「アホなことを言うな! シャープはまだ大阪の堺市にあるじゃないか!」とおっしゃる人がいるかもしれない。だが、決定的支援を受けたシャープに、いかほどの戦力が残っていようと、それはすでに形骸である。もうね、日本企業じゃないんだよね(涙)。
X68000は、1987年3月28日にシャープが発売した高性能パーソナルワークステーションである。「パーソナルワークステーション」とはメーカーのシャープが作った造語で、現代の用語に変換すると、ずばり「ゲーミングPC」に該当する。
見たまえ、そのツインタワー型の美しいフォルムを! 四角い箱形の本体の上にちっさなモニターを載せるPC-9800と比べると、X68000の方は古さを全く感じないではないか。
なんとこのX68000、CPUにアーケードゲームの基板に使われていたモトローラ社のチップ「MC68000」を採用していて、ゲームセンターで大人気だったアーケードゲームを完全移植できる性能を持っていたのだ! シャープはX68000という“ビグ・ザム”を戦場に投入し、パソコン事業のライバル企業であったNECや富士通に徹底抗戦を挑んだのである。
家庭用ゲーム機といえばファミリーコンピュータがあるだけで、PCエンジンもメガドライブもまだ発売されていなかった頃の話である。X68000が当時のゲーム小僧に与えた衝撃は容易に想像できると思う。とはいうものの、当時の私は、アーケードゲームがプレイできるパソコンがあるらしい、というあやふやな情報しか持っていなかった。値段が高すぎてとても手が出せる商品ではなかったからである。
初代X68000の定価は369,000円で、この時代は消費税を考慮しなくてよかったが、現在の貨幣価値に換算すると440,000円~460,000円くらいの感覚である。排気量が少ないバイクなら買えてしまう価格だ。
本書『X68000パーフェクトカタログ』は、X68000用に発売されたゲームソフトを紹介するカタログ本である。アーケードからの移植作品、『信長の野望』シリーズなどの戦略シミュレーションゲーム、そして男の子のリビドーを刺激するギャルゲーの数々と、過去の名作・秀作を偲ぶことができる。
Amazonのカスタマーレビューを見ると、プログラミングソフトや音楽ソフトといったクリエイティブ系のソフトを紹介していないという不満の声があった。X68000はゲームをするだけのパソコンではなかったので、本書に低評価を付ける人の気持ちも分かる。