副島隆彦『人類の月面着陸は無かったろう論』(徳間書店)山本弘ほか『人類の月面着陸はあったんだ論―と学会レポート』(楽工社)■ 2005年日本トンデモ本大賞受賞作品 天下の奇書である。6年前に刊行された古い本だが、あまりにもインパクトが大きかったので、この際紹介したい。題名からしてところてんのように掴み所がない。「無かったろう」に「論」を付ける著者のセンスには脱帽である。
著者は「英語読本」や「経済読本」を数多く出版している碩学の副島隆彦氏である。どういう経緯で「アポロ計画陰謀論」について言及しようとしたのか動機は定かではない。おそらく覇権国家アメリカに対する反発心が、ゆがんだ形で噴出したのではないだろうか。
副島氏の主張を簡単に説明するとこうだ。アポロ計画によって月に人類が行ったという歴史的事実はなく、すべてはNASA及びアメリカ合衆国が捏造したフィクションである。ロケットは飛ばしたかも知れないが、中に人は乗っていなかった。宇宙飛行士が月面を歩いている映像は、『2001年宇宙の旅』のスタンリー・キューブリック監督が極秘に撮影したフィルムだというのだ。まるでTVでやっているオカルト番組のノリである。
ここまで断言するからには、独自の取材で得た確固とした根拠があるのかと期待して読み始めた。しかし、最初の章から誤った科学的知識を振りかざし、支離滅裂な論理を展開している。いくら筆者が文系出身とはいえ、素人同然の疑問提示には閉口するしかなかった。おまけに陰謀論を支持する2ちゃんねらーの書き込みを、ソースとしてコピペしている。読んでいるこちらの頭のネジが飛びそうである。
本書は2005年に、と学会による「日本トンデモ本大賞」を獲得している。と学会会員の圧倒的な数の得票を得たらしい。これには心から納得した。
著者は「ギャグ本」として書いたのではないか。本の中盤を読んでいるあたりで、そんな疑念が浮かんできた。いやしくも歴とした評論家である副島氏が執筆しているのだ。製本すること自体がギャグのような内容である。何なんだ、この物体は!
ひょっとして、これは一種の「釣り本」なのか? 最後のページに「なんちゃって(^ω^*)テヘッ」と書いてあるのではないか、そうであって欲しい・・・・。
・・・・読了後に判明したことがあった。そう、副島氏はいわゆるひとつの「マジ」なのだ。オカルト本の飛鳥昭雄氏が愉快犯なら、陰謀史家の副島氏は信念に基づいた確信犯である。
もしNASAがやらかしたインチキがばれて、知能が高い「常識人」のと学会のメンバー全員が副島氏に土下座するような事態があったりすると、それはそれで楽しいなと思った。いや、わりとマジで。この人の経済予測は、結構当たっていたりするから怖い。